というわけで。
↓から突発奥村兄弟小噺です。
最近暑くて、いつの間にか意識を失うように寝ていることが多いです。
暑さは体力を奪いますね。何をしてなくても。
そういうときに水分補給をしないと、熱中症とかになるんだろうなぁ。
気をつけないといけないですね!
そうそう、それから。
ぱちぱち拍手、ありがとうございます!
熱い日の活力です!

涙とさよなら
小さなころから、弟は泣き虫だった。たぶん、とても心が繊細で敏感だったせいだ。ちょっとしたことや大きな音がしただけでも泣いていた。自分に対してじゃなくても、乱暴な言葉を聞くだけで怯えていたし、喧嘩なんてもっての他だ。
そんな気弱な弟を守らなければ、と俺は小さな頃から思っていた。だけど同時に、自分よりも繊細な弟の扱いに戸惑いを感じていたのも正直なところだった。
そんな、ある日のこと。いつものように弟をいじめっ子たちから守ったときのことだ。俺たちが掴み合いの喧嘩をしているのを怯えたように見ていた弟は、いじめっ子たちが去ったあともとても怯えていた。体を小さく丸めて、色んなものから自分を守るように。ぐすぐす、といつまでも泣いている弟を安心させたくて、俺はとにかく笑った。笑って、手を伸ばした。だけどその手は、ひどく怯えた手に払われて。
「っ」
ぱし、と幼い手が俺の手を叩くのを、俺は呆然と見た。じん、と痛む手。どうして?もう怖いものなんて何もないのに?どうしてそんなに怯えているの?俺、ちゃんとお前を守ったのに。
弟が分からなかった。涙で揺れる瞳が、その時はなんだかひどく不快に思えた。喧嘩したときの興奮と痛みもあって、俺は気づいたら怒鳴っていた。
「なんだよ!なんで泣いてんだよ!怖いもんなんか、なんもないよ!泣き止めって!」
「っ、っ、ぅ」
「っ、もうっ!泣くなって!」
ふるふると首を横に振る弟。もう何がなんだか分からなくて、自分でも涙が浮かぶのを感じた。だけどぐっと唇を噛んで耐える。兄貴は簡単に泣いちゃいけないってジジイが言ってたから。でも俺は我慢するのに、弟はやっぱり泣いていて。なんだかそれが、イライラして。
「泣くな!これ以上俺の前で泣いたら、絶交だかんな!」
気づいたら、そう、本気で怒っていた。弟は大きく目を見開いて、さっきよりも大きく首を横に振っていた。そしてぐいっと乱暴に涙を拭って、泣いてないよ、という顔をする。
泣いたら絶交って言っておきながら、そんな顔をされて俺は嫌な気持ちになった。だけど、言ってしまった言葉は戻せない。俺は乱暴に弟の手を引いて、家に帰りついた。でも、泣き虫な弟のことだから、きっとすぐに泣くだろう。そう、思ったのに。
その日以来、弟が俺の前で泣くことは、なくなった。
「………、」
「…………」
「…………」
「………………、あのね」
そんなことを考えつつ、すっかり成長した弟の横顔を見つめていたら、何故か呆れたような困ったような顔をされた。ん?と首を傾げると、弟はパソコンに向けていた目をこちらに向けた。眼鏡越しの瞳は、昔と少しも変わっていないと思う。
「僕の顔に何か付いてるの?そんなじっと見られると気が散るんだけど」
「え?雪男の顔にはホクロしか付いてねぇよ?」
「だったら、なんでそんな僕の顔を見てるの」
「うん?だってお前、泣かないなって思って」
「は?」
目をぱちくりさせる弟。きょとん、とした彼は、しかしすぐにきゅっと眉根を寄せた。いきなり何言いだすかと思えば、と眉間に手をやって唸っていた。
「そんなこと気にするくらいなら、目の前の宿題の方を気にして欲しいよ」
「そんなことってなんだよ!俺は弟のお前のことを心配して、」
「だったら、今すぐその課題に取り掛かって僕を安心して欲しいな」
にっこり、と。満面の笑顔を浮かべながら、しかし目で睨みつけるという芸当をしてのけた弟。しかし俺は不満を覚えた。違う。俺が見たいのはそんな顔じゃねぇ。ぱたぱたと尻尾が不満を訴えた。
「なーなー。何で泣かねぇの?」
「僕は兄さんのその能天気さに泣きそうだよ」
「え?何、泣きそうなの?それからお兄ちゃんの胸を貸してあげよう!」
「………」
なんだろう。すごく冷たい目を向けられてしまった。両手を広げた俺を、じろりと睨む弟。
あれ、泣きそうじゃねぇの?なんだ、つまんねぇ。ぶす、と俺は頬を膨らませて、小さく呟く。
「俺、お前のこと泣かせてぇなー………」
「ぶっ!」
ぼそりと呟いたものの、しっかり弟には聞こえていたらしい。何やら吹き出していた。あれ、俺、なんかおかしいこと言ったか?自分の言葉に首を傾げる。
「っ、ちょっと兄さん?なんてこと言うの。心臓に悪いから、止めてくれる?」
「えー?そうか?だって俺、お前の泣き顔見てぇし」
「っ、っ、き、聞き捨てならないな、その言葉!っていうかね、それは僕の言葉!」
「へっ?お前、俺のこと泣かせたいの?」
驚きに顔を上げて。
あっ、と思った時には、もう遅かった。
俺の言葉に顔を真っ赤にした弟は、じわりと眼鏡の奥の瞳を滲ませたかと思うと。
「……っ、っ、っ、兄さんの大馬鹿!」
がたん、と椅子を盛大にひっくり返しながら、慌ただしく部屋を飛び出して行ってしまった。ぽかん、と呆気に取られる俺。そしてその背中が扉の向こうに消えると、俺はぼそりと呟いた。
「あ、泣き顔、」
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